眼科医と姿勢① | 菊地眼科クリニックブログ

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眼科医と姿勢①

25年間、診察用の椅子を探し続けた理由~

今回は初めて眼科医としての視点から書いてみようと思います。

約25年間、眼科医として診療と手術を続けてきました。

もともと腰痛持ちでしたが、この数年は五十肩や首の痛みも加わり、身体への負担を強く感じるようになりました。

眼科医は仕事中のほとんどを座って過ごします。診察ではスリットランプをのぞき込む時間が長く、不自然な姿勢が続くことも少なくありません。

できるだけ立って身体を動かすよう心掛けていても、眼科という診療科の特性上、どうしても座って行う仕事が中心になります。

理学療法士や友人のマッサージ師に身体をほぐしてもらい、その場では楽になるものの、根本的な改善にはつながりませんでした。

そんなある日、理学療法士から言われた一言が印象に残っています。

「先生、診察中キリンみたいになっていますよ。」

自分では気付いていませんでしたが、それほど前かがみになって診察をしていたのです。

「職業病だから仕方がない。」

そう思っていましたが、50代に入り症状が目立つようになったことをきっかけに、「健康への投資」を真剣に考えるようになりました。

開業以来、椅子にはこだわってきた

開業当初から、毎日長時間使う椅子にはこだわろうと決めていました。

勤務医時代は支給された椅子を使うのが当たり前でしたが、先輩の開業先ではアーロンチェアなど質の高い椅子が導入されており、「椅子一つでこんなに違うのか」と感じたことを覚えています。

そこで開業時にはエルゴヒューマンを購入しました。見た目も機能も素晴らしい椅子でしたが、診察中の細かな動きには少し合わず、わずかな体重移動にも腹筋を使うような感覚がありました。また、床材との相性もあり、キャスターの動きも思ったほど滑らかではありませんでした。

その後、スタッフにはイトーキのカシコチェア、女性医師にはハーマンミラーのセイルチェアを導入しました。

自分自身は、歯科医師にも愛用者が多いスウェーデン生まれのサドル型「サリーチェア」を選択しました。姿勢は改善しましたが、長時間の診療では決定打にはなりませんでした。

さらにAKRacingも試しましたが、診察には適しませんでした。

こうして振り返ると、本当にさまざまな椅子を試してきたと思います。

【サリーチェアー】

【セイルチェアー】

【AKRACING】

診察姿勢を変えた設備投資

椅子だけではなく、診察姿勢そのものを改善する設備も導入しました。

スリットランプには接眼部を約20度持ち上げるアダプターを装着しました。

これにより首を深く曲げる必要がなくなり、診察時の身体への負担は大きく軽減されました。

before

after

椅子のプロとの出会い

そんな頃、ご縁があり、キルト工芸の鈴木社長と知り合う機会がありました。

新幹線「のぞみ」の運転席や、川崎市長の椅子などを製作されていると伺い、

「もし運転席の椅子を診察用に使えたら最高ではないか。」

と思い切って相談しました。

残念ながらJRとの契約上、それは実現しませんでした。

しかし鈴木社長から、

「既製品にも素晴らしい椅子があります。一度実際に座ってみましょう。」

と声を掛けていただき、お忙しい中、みなとみらいのイトーキショールームまで同行してくださいました。

実際にさまざまな椅子へ座り比べ、色や背面形状なども自分に合う仕様を選び、セミオーダーで導入したのが現在使用しているAct2です。

これは本当に素晴らしい椅子でした。

疲れにくく、キャスターの動きも滑らかで、肘置きの位置もちょうど良い。そして長時間座っていてもお尻が痛くなりません。

診察中は無意識に少しずつ座る位置が変わりますが、その動きにも自然に追従してくれる感覚があります。

現在では女性医師もAct2を使用しており、診療環境の改善にもつながっています。

広島で出会ったG7サミットの椅子

先日広島を訪れた際、平和記念公園周辺で開催されていたG7広島サミット関連展示を見学しました。

そこでは、実際に各国首脳が使用したイトーキ製の特注チェアに座る機会がありました。

背面には折り紙を思わせる美しい木製デザインが採用され、日本らしい繊細さと高いデザイン性が印象的でした。

実際に座ってみると座り心地も非常に良く、「やはりイトーキの椅子づくりは素晴らしい」と改めて感じました。

診察用チェアとG7で使用された椅子では用途こそ異なりますが、「長時間快適に座る」という考え方は共通しているように思います。

おわりに

今回ご紹介した椅子や設備は、あくまでも私個人が実際に使用した上での感想です。

体格や診療スタイル、専門分野によって感じ方は異なると思いますので、「この椅子がすべての方にとって最良」という意味ではありません。

私自身が25年間試行錯誤を重ね、多くの方々とのご縁の中で現在の診療環境にたどり着いた、その経験を備忘録として残したいと思い、今回の記事を書きました。

健康への投資は、自分自身のためだけではなく、患者さんへより良い医療を提供することにもつながると考えています。

今回、鈴木社長とのご縁がなければ、今の診療環境はありませんでした。

この場をお借りして、鈴木社長をはじめ、ご協力いただいた皆様に心より感謝申し上げます。

次回は、手術室で出会ったもう一人の「椅子のプロフェッショナル」と、人間工学が生み出した手術用チェアについてご紹介したいと思います。